築100年は経とうかという旧家の改装。増築やリフォームを重ねて、この家本来の大らかさが無くなってしまい、その一方で高齢の御母堂様のことを考える と、まず考えなければいけないはずの、断熱性能や床の段差はそのままにされていました。家の雰囲気は変えずに御母堂様の住みやすい家にすることが、設計上 のテーマでした。

大らかさを取り戻すために、まず縁側と和室の関係を、その間にあった欄間・襖を取り払って一体化し、さらに部屋の部分と二間続きのリビングとしました。さらに、家の中央に位置する無窓の部屋にトップライトを設け、「ひかりの間」として家の真ん中に陽光を落とすことに。
これによって、リビング-ダイニング-キッチンが並列する空間、言わば家の幹となる空間に、東西南北、どの方位からも自然光が入ってくる関係としました。

室内環境を良くするために設けた縁側のアルミサッシは旧家らしい外観を台無しにする事のないよう黒色とし、軒によってつくられる影に埋没するようにしまし た。既存の木製建具はそのままにしてあるので、断熱効果の高い二重サッシとなり、内側から見れば木の素材は生かされるという「一石二鳥」の関係を考えまし た。

元々の縁側の天井は軒裏が剥き出しでしたが、そこに断熱材を裏打ちした合板を貼り、その上から、化粧垂木と天井を被せて、今までの雰囲気を踏襲しました。

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部屋の畳をフローリングに変える際、畳の厚み分で、断熱材・床暖・フローリングを施工し、敷居との段差を無くしていきました。御母堂様のつまづきの元を解消しながら断熱性能を高めるという、 「一石二鳥」の考え方がここでも繰り返されています。

こういった改装工事では、何かと何かを兼ねる「一石二鳥」的兼用のほかに、素材の転用も大事になります。旧家らしく歴史を感じるものがいろいろ残っており、なるべく使っていくことにしました。
特に「ひかりの間」では、外部で使っていた引き違いの木製建具、彫物欄間、簾障子などすべて別の場所で使っていたものを、転用して「ひかりの間」を特徴付けるインテリアとして活躍してもらうことにしました。

古くて大きな家は、どこまで手を入れるかが難しく、やり出すときりがありません。予算とのにらめっこで「ここまではやって、この部分はあきらめましょう」 というお施主様の理解があったからこそ、工事が遅れることなく、また大幅な追加費用も出ることなく、完成に辿り着きました。そして、 「元々の慣れ親しんだイメージからかけ離れることなく、空間を一新する」という私たちのテーマは、想定以上に達成する事ができました。これは、やはり施工 者である渡辺富工務店の力量に他なりません。